「牛乳を飲みましたか?」
1993年に始まり、今日まで続いているこの広告キャンペーンは、何百万人もの人々の記憶に残っています。キャンペーンの目的は、健康に良いとされる乳製品、特に牛乳の販売を促すことでした。中でも強調されたのは、牛乳に豊富に含まれるカルシウムの存在です。
カルシウムは私たちの体全体、特に骨において重要な役割を果たす栄養素です。実際、骨はカルシウムの貯蔵庫のような働きをしており、体は必要に応じてカルシウムを取り出したり蓄えたりしながら、体内のカルシウム濃度を一定に保っています。
カルシウムが体にとって重要な成分であることに疑いの余地はありません。しかし、それが何に使われ、どれくらい必要で、どうすれば十分な量を摂取できるのかという点については、改めて考える必要があるでしょう。
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カルシウムは体の中でどう使われているのか
私たちの体内でカルシウムが最も重要な役割を果たしているのは骨と歯です。カルシウムは健康な骨と歯をつくり、それを維持するために欠かせない成分といえます。カルシウムによって、骨は成長とともに発達し、年齢を重ねてもその状態を保ち続けることができます。さらに、何らかの原因で骨に問題が生じたときには、その修復にもカルシウムが使われます。
カルシウムには、筋肉の働きを助けるという大切な役割もあります。脳が筋肉に「動け」と命令すると、神経がその信号を伝え、カルシウムが放出されて筋肉を収縮させます。また、カルシウムが筋肉から引き戻されることで筋肉は弛緩します。このように、筋肉の動きにはカルシウムが欠かせません。カルシウムが不足すると、筋肉の動きがうまく調整できなくなってしまうのです。
このことから、カルシウムは心血管系にとっても重要な役割を果たしていると考えられます。実際に、カルシウムには心臓の筋肉の動きを調節する働きがあります。また、血液が固まる過程にも関わっており、カルシウムの摂取量が多いほど血圧が低くなる傾向があることもわかっています。
さらに、カルシウムは体の中で、さまざまな酵素の働きを助ける役割も担っています。こうした働きのすべてを解明するには、まだ多くの研究が必要です。一方、カルシウムを適切に摂取することで、妊娠高血圧症候群のリスクを減らしたり、コレステロール値を改善したり、大腸にできる腫瘍(大腸腺腫)の予防につながる可能性があることがわかってきています。
体に必要なカルシウムの量
適切な身体機能を維持するには、十分なカルシウムの摂取が欠かせません。私たちの体には多くのカルシウムが含まれており、成人の場合、女性の体には約1,200g、男性の体には約1,400gのカルシウムがあるといわれています。体は常にカルシウムを使い続けていますが、自らカルシウムを作り出すことはできません。そのため、健康を保つには、日々の食事から必要な量のカルシウムを摂取する必要があります。では、どれくらいの量をとれば十分といえるのでしょうか。
必要なカルシウムの量は、生まれたばかりの赤ちゃんで1日あたり約200gとされています。そして、成長に伴いその量は徐々に増えていきます。また、カルシウムは年齢とともにより多く必要となる栄養素でもあります。年を重ねるにつれて、骨の中のカルシウムを維持するのが難しくなるからです。さらに、体の成長が一気に進む思春期にも、大量のカルシウムが使われます。
次の表は、全米科学・工学・医学アカデミーの食品栄養委員会が定めた、1日に必要なカルシウムの推奨摂取量です。
低カルシウムの危険性
食事で十分なカルシウムをとらないと、どんな影響があるでしょうか。
最も大きな影響は、骨が弱くなることです。カルシウム不足の状態が続くと、体は足りない分を補おうとして、骨の中のカルシウムを使い始めます。その結果、骨の密度が下がり、もろくなってしまいます。こうした状態が進むと、骨粗しょう症になる可能性があります。骨粗しょう症は特に高齢者によく見られ、骨が衝撃に弱くなり、転倒などをきっかけに骨折しやすくなります。よく言われる「転んでお尻を骨折する」というイメージは、多くの場合この骨粗しょう症が背景にあります。
子どもの場合、カルシウムが不足すると骨の成長が阻害され、くる病を引き起こすことがあります。また、カルシウムは血圧や心血管系の健康、コレステロール値とも関係していると考えられており、これらの機能にも悪影響を及ぼす可能性があります。ただし、こうした因果関係についてはまだ十分な研究が行われておらず、はっきりとしたことは分かっていません。
一般的に、カルシウム不足のリスクが高いのは、次の3つのグループです。
- 高齢者
年を取ると、体がカルシウムを吸収したり利用したりする力が弱くなることがあります。そのため、骨の健康を保つには、より意識してカルシウムをとることが大切です。
- 閉経後の女性
閉経によってエストロゲンの分泌が減少すると、カルシウムの吸収力が低下します。閉経後の女性の約3人に1人が骨粗しょう症を患っていると推定されています。
- 乳製品をとれない人
乳糖不耐症や牛乳アレルギーがある人、菜食主義の人、コレステロールを気にして乳製品を避けている人は、食事から十分な量のカルシウムをとるのが難しく不足のリスクが高まります。ただし、幸いなことに乳製品以外にもカルシウムを含む食品は多くあり、工夫次第で無理なく摂取が可能です。
カルシウムを多く含む食品
これまで、カルシウムをとる方法として最も一般的なのは乳製品とされてきました。そのほか、濃い緑色の野菜や一部の野菜も良い選択肢です。
以下に、カルシウムが豊富に含まれる食品をいくつか紹介します。
最も良いのは乳製品ですが、それ以外の食品からも適度な量のカルシウムをとることは可能です。バランスの良い食事を心がけていれば、さまざまな食品から少しずつカルシウムが摂取できるため、特別な工夫をしなくても必要な量をとることができます。
そして、ここで忘れてはいけないのがビタミンDの存在です。ビタミンDは、カルシウムが体の中でしっかり働くために欠かせない栄養素として知られています。
カルシウムの活性剤|ビタミンD
体がカルシウムを吸収・利用するためには、その働きを助けるビタミンDを十分にとることが大切です。
ビタミンDは「カルシフェロール」とも呼ばれる脂溶性ビタミンで、一部の食品に自然に含まれているほか、最近ではサプリメントで補うことも一般的になっています。また、ビタミンDは太陽の光を浴びることで体内でもつくられます。この場合、まず「不活性型」のビタミンDが生成され、それが体内で変化して「活性型ビタミンD」となり、実際に体で使える状態になります。
摂取したカルシウムを体内で活用するには、十分な量のビタミンDが欠かせません。ビタミンDを得るには日光を浴びるのがもっとも手軽な方法ですが、食事からとることも可能です。
以下は、1日に推奨されているビタミンDの摂取量です。
これらの推奨量は、日光にほとんど当たらず、体内で十分なビタミンDが合成されないことを前提に設定されています。実際には、雲の量やオゾン層の厚さ、日照時間など、地域による違いが大きいため、「どれくらい日光を浴びればよいか」という具体的な基準を示すのは難しいのが実情です。さらに、紫外線には発がん性があるため、積極的に日光浴を勧めにくいという側面もあります。そして、日焼け止めを使用すると、肌でのビタミンDの合成が妨げられてしまいます。
一方、ビタミンDを多く含む食品には、牛乳、脂ののった魚(マスやサケなど)、卵、チーズ、キノコなどがあります。
十分なカルシウムを摂取しているかどうかを確認する方法
健康を保ち、骨を丈夫にするために十分なカルシウムが摂れているかどうかを確認するには、どのような方法があるのでしょうか。
まず、乳製品を摂取することをおすすめします。上記のチャートでもわかるように、ヨーグルト、モッツァレラチーズ、牛乳、コテージチーズには、カルシウムだけでなく健康に有効な他の栄養素も豊富に含まれています。また、ビタミンDをあわせて摂取することで、カルシウムが体に吸収されやすくなります。
乳製品にアレルギーがある方や、血中のLDLコレステロール値が高い方には魚がおすすめです。特に、サーモン、マグロ、マスなどは、カルシウムに加えてオメガ3脂肪酸などの健康的な栄養素もたっぷり含まれています。また、イワシのように骨ごと食べられる魚は、骨の部分からより多くのカルシウムとビタミンDを摂取できます。
多くの加工食品には、カルシウムやビタミンDなどが添加されています。しかし、これらの食品は過剰な塩分や防腐剤を含んでいることがあるため注意が必要です。できるだけ自然食品や天然の食材を使った献立を選ぶようにしましょう。
ビーガンの方には、豆腐、大豆製品(豆乳など)、ケールなど色の濃い葉物野菜がおすすめです。
一般的に、バランスの取れた食事であれば、カルシウムは十分に摂取できます。ただし、ビタミンDが不足していると、カルシウムが体内でうまく利用されないことがあるため、両方の栄養素をバランスよくとることが大切です。
カルシウムサプリメントは有効なオプションなのか?
この問いに対しては、「そうでもあり、そうでもないこともある」というのが答えです。日々の食生活においてカルシウムが不足している場合、推奨される1日の摂取量を補うために、サプリメントを使用するのは合理的です。ただし、必要以上の摂取はメリットがないだけでなく、心臓病のリスクを高める可能性もあります。
初めからサプリメントに頼るのではなく、健康的な食生活とライフスタイルを心がけたうえで、必要に応じて少量のサプリメントで栄養の不足を補うのが理想的です。私はオプティマムビタミン(Optimum Vitamin)という、自身の栄養バランスを補うために開発したサプリメントを使用しています。
どんな栄養素でも過剰摂取には注意が必要です。カルシウムのサプリメントを摂取している人の中には、胃腸の不調や便秘を訴える方もいますし、一部では腎臓結石のリスクが高まることも指摘されています。
毎日の生活に正しくサプリメントを取り入れて、健康的な体づくりを目指しましょう。
参考文献
https://ods.od.nih.gov/factsheets/Calcium-HealthProfessional/
https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/nutrition-and-healthy-eating/in-depth/calcium-supplements/art-20047097
https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminD-HealthProfessional/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28735581/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24131320/
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