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長寿の専門家が警告する断続的断食のリスクと注意点

断続的断食(ファスティング)は、減量や代謝の健康改善、さらには長寿の促進に役立つ強力な手法として広く知られ、近年その人気が急上昇しました。しかし、当初の大きな期待とは裏腹に、長寿研究の第一人者たちの中には、断食に対する見解を変える専門家も出てきています。
なぜ彼らの立場が変わったのか? その理由を探りながら、最新の科学的根拠をもとに、健康を最大限に高めるための、効果的な断食の方法について考えていきます。

 

初期の熱狂|げっ歯類の研究が示した断続的断食の効果

断続的断食が注目を集めたきっかけは、げっ歯類を対象とした研究で驚くべき健康効果が確認されたことです。研究では、1日のうち特定の時間帯に食事を制限する「TRF(時間的制限摂取)」を行うと、体重の減少や血糖値・インスリン値の改善に加え、寿命の延長効果も見られることが示されました。
特に興味深いのは、TRFを行ったグループと対照グループが同じ量の食事を摂取していたにもかかわらず、同様の健康効果が確認された点です。この結果は、健康への影響が単に食事の量だけでなく、「いつ食べるか」というタイミングにも大きく左右される可能性を示唆しています。
げっ歯類の研究は、人間と生物学的に類似しているため、長年にわたり医学研究の基盤とされてきました。そのため、こうした研究結果をもとに、同じ効果が人間にも当てはまるのではないかという期待が高まったのです。

人間の研究|初期に示された有望な結果

断続的断食に関する人間の研究が始まった当初、その結果は非常に有望に見えました。2020年のメタ分析(複数の研究結果を統合して全体の傾向を分析する手法)によると、時間制限のない食事パターンと比べて、より大きな体重減少や血糖値の改善が確認されています。
初期の研究結果は、げっ歯類の実験を裏付けるかのようでした。例えば、メタ分析では、TRF(時間制限摂取)を行ったグループは、自由に食事をとるグループよりも体重が減少し、空腹時血糖値も低下するなど、より良い結果を示しました。
こうした科学的な裏付けを受け、健康愛好家や長寿の専門家の間で断続的断食が急速に広まりました。その魅力は、そのシンプルさにあります。食べる時間を制限するだけで、食事内容を大きく変えなくても、多くの健康効果を得られるという考え方が、多くの人々に支持されたのです。

亀裂が見え始める|研究で明らかになったカロリー調整の影響

しかし、研究が進むにつれ、初期の熱狂は次第に薄れていきました。人間を対象とした研究を詳しく分析すると、いくつかの重大な問題が明らかになったのです。そのひとつが、断食グループと対照グループの摂取カロリーが適切に調整されていなかったという点でした。
多くの研究では、断食グループの摂取カロリーが対照グループよりも少なくなっていました。このため、観察された体重減少や代謝の改善が、断食そのものではなく、摂取カロリーの減少によるものだった可能性が指摘されています。実際、2021年に国際的な非営利組織「Cochrane(コクラン)」が行ったメタ分析では、両グループの摂取カロリーを統一した場合、体重減少や血糖値に有意な差は見られなかったことが判明しました。
この結果は非常に重要です。つまり、断続的断食の健康効果は、断食そのものの影響ではなく、単に摂取カロリーが減った結果かもしれないということです。結局のところ、食事のタイミングよりも摂取カロリーの減少こそが、体重減少や代謝の改善を引き起こしていたと考えられます。
また、上記の結論はさらなる研究によっても裏付けられています。例えば、2019年に行われた隔日断食の研究では、断食グループの空腹時インスリン値やインスリン抵抗性が大幅に改善されたものの、実際には摂取カロリーが対照グループよりも少なかったことが分かりました。
また、脂肪肝疾患に関する研究でも同様の結果が確認されています。2023年の研究では、TRFがカロリー制限と比較して、肝脂肪の減少や代謝リスクの低下に追加的なメリットをもたらすことはなかったと結論づけられました。

タンパク質のジレンマ|断続的断食と筋肉維持の課題

断続的断食に関する議論は少ないものの、重要な課題のひとつとして、タンパク質の摂取と筋肉維持への影響が挙げられます。筋肉の成長を助け、筋トレなどの効果を最大限に引き出すためには、体重1kgあたり1日約1.6gのタンパク質を摂取することが推奨されています。
特に、朝食を抜くスタイルの断続的断食を実践している人は、十分なタンパク質を摂取しにくい傾向があります。加齢とともに筋肉の維持がより重要になるため、この点は特に注意が必要です。食事の時間が限られるとタンパク質の摂取量が不足しやすくなり、その結果、筋肉量が減少し、長期的な健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
この問題を解決するため、断続的断食を実践する人には、断食時間中に低カロリーのプロテインを取り入れることをおすすめします。これにより、カロリー制限を維持しながらも、筋肉の維持に必要なタンパク質を摂取することができます。
また、定期的に筋トレなどの抵抗運動を行っている人にとって、十分なタンパク質の摂取はさらに重要です。適切なタンパク質の摂取と運動を組み合わせることで、年齢を重ねても筋肉量を維持しやすくなります。
このようなアプローチは、筋肉の健康をサポートするだけでなく、全身の代謝機能にも良い影響を与えます。そのため、断続的断食を実践するすべての人にとって、タンパク質の摂取と運動のバランスは欠かせない要素といえるでしょう。

断食に関するいくつかの真実

断食を支持する人の中には、数日間の長期間断食を実践することで、自己捕食(オートファジー)が大幅に活性化すると信じる人もいます。自己捕食とは、体が損傷した細胞を取り除き、新しい細胞を再生するプロセスのことです。健康維持にとって重要な働きであり、げっ歯類の研究ではその有益性が示されています。しかし、この効果をそのまま人間に当てはめることはできません。
げっ歯類の場合、16時間の断食は代謝の違いにより、人間の約4日間の断食に相当すると言われています。しかし、この単純な比較は人間の生理機能の複雑さを考慮していません。さらに、人間は肝臓にグリコーゲンとしてエネルギーを蓄えており、自己捕食が本格的に活性化するまでに最大48時間かかることがあります。
数日間の断食の理論は興味深いものの、長期的な健康効果を証明する臨床的な根拠は、現時点では存在しません。むしろ、長期間の断食にはいくつかの懸念があり、特に問題となるのが筋肉の損失です。
断食中、体はエネルギーを補うために筋肉を分解し始めます。その後、十分に筋肉が再生されなければ、筋肉量が減少し、身体にとって大きな損失となる可能性があります。
さらに、長期間の断食による筋肉の減少は、健康全体に悪影響を及ぼす可能性があります。年齢を重ねるにつれ、筋肉は代謝の健康、体力、運動能力の維持に重要な役割を果たします。特に、加齢に伴う筋肉量の減少は、体の衰えや転倒、代謝機能の低下を引き起こすリスクを高めることが知られています。
そのため、筋肉を維持する観点から考えると、数日間の断食の潜在的なリスクは、期待されるメリットと慎重に比較する必要があるでしょう。

私の体験談|長期断食をやめた理由

数年前、私は3か月ごとに7日間の長期断食を実践していました。その目的は、自己捕食を活性化し、げっ歯類の研究で確認された健康効果を得ることでした。しかし、実際に続けてみると、期待とは大きく異なる現実に直面しました。
長期断食を続けるうちに、私は明らかな筋肉の減少を感じるようになりました。断食後は、失った筋肉を取り戻すために数週間かけてトレーニングを行いましたが、それでも体が徐々に弱くなっていくのを実感しました。断食によって失った筋肉を完全に回復するのは難しく、最終的にはこの方法を続けることを断念しました。
結果的に、私は長期断食の潜在的なメリットよりも、筋肉への悪影響のほうがはるかに大きいと感じるようになりました。さらに、人間における長期断食の健康効果を裏付ける確かな科学的根拠が不足していることもあり、この習慣をやめる決断をしました。
筋肉量の減少は、身体的な問題だけでなく、心理的にも大きな負担となりました。長期間の断食を繰り返すうちに、失った力や筋肉を取り戻すための努力がどんどん大きくなり、その影響が蓄積されて全体的な健康や生活の質にも悪影響を及ぼしていると感じました。
この経験を通じて、極端な食事法を実践する際には、確かな科学的根拠に基づいて慎重に判断することが重要だと痛感しました。何よりも、体の声に耳を傾け、自分にとって本当に健康的な方法を選ぶことが大切だと改めて実感したのです。

実践ガイド|効果的な断食の取り入れ方

最新の研究をもとに、断食を取り入れる際の実践的なポイントを紹介します。


1.食事のタイミングよりも摂取カロリーを管理する


研究によると、断続的断食の効果は食事のタイミングよりもカロリー制限に関係していると考えられます。そのため、断食が摂取カロリーの管理に役立つのであれば、体重管理や代謝の健康をサポートする手段として活用可能といえます。タンパク質をしっかり摂取する
断食を実践する場合は、十分なタンパク質を摂ることが重要です。特に筋肉量を維持するために、低カロリーのプロテインパウダーを取り入れるなど、1日に必要なタンパク質をしっかり摂れるよう工夫しましょう。


2.長期間の断食は慎重に検討する

数日間の長期断食は、自己捕食を促進する方法として注目されていますが、人間にとって有効であるという確かな証拠はありません。また、筋肉の損失リスクも高まるため、長期間の断食を検討する際は、必ず医師や専門家に相談しましょう。
ライフスタイルに合った方法で断食を取り入れる断食は、自分のライフスタイルや健康状態に合った方法で取り入れることが大切です。例えば、朝食を抜いて昼食と夕食をしっかり食べるほうが合う人もいれば、逆に朝食をしっかり摂り、夕食を軽めにするほうが適している人もいます。自分にとって無理のないやり方を見つけましょう。
健康状態をこまめにチェックする断続的断食を実践する際は、健康状態をこまめにチェックすることが大切です。体の変化を注意深く見ながら、必要に応じて方法を調整しましょう。また、スマートウォッチなどを使って夜間の心拍数を測定すると、食事の時間が睡眠やエネルギーの状態にどのような影響を与えているかを知るのに役立ちます。

結論|断食はバランスを意識して取り入れることが大切

断続的断食は、健康的なライフスタイルのひとつとして、特に、体重管理や血糖コントロールに役立つ方法とされています。しかし、研究によると、その効果は断食そのものではなく、カロリー制限の影響による可能性が高いことが分かっています。
多くの人にとっては、バランスの良い食事、十分なタンパク質の摂取、そして定期的な運動を続けることのほうが、厳格な断食を行うよりも長期的に良い結果をもたらすでしょう。
また、食事やライフスタイルを大きく変える前に、自分に合った方法を見極め、必要に応じて医師や専門家に相談することが大切です。

 

参考文献

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6627766/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29754952/
https://www.cochrane.org/CD013496/VASC_does-limiting-times-you-eat-intermittent-fasting-prevent-cardiovascular-disease
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7138754/
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2802553
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5355425/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8151159/

 

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