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アルコールと健康の関係とは?リスクやメリット、飲酒をめぐる論争を詳しく解説

アルコールは長年にわたり、社交の場や特別なイベントで親しまれてきました。しかし、近年の研究では、アルコールとさまざまな疾患の関係が示唆されており、飲酒による健康リスクが改めて注目されています。
特に、アルコールはがんや心血管疾患などのリスクを高めるとされ、適量の飲酒であっても健康に悪影響を及ぼす可能性があると考えられています。また、現状の研究では「安全な飲酒量」を明確に定義することは難しく、専門家の間でも意見が分かれています。
本記事では、アルコールのリスクとメリット、そして最新の研究動向について詳しく解説します。

 

「乾杯!」の裏側にある健康リスクとは?

お酒は伝統的に健康に良いとされることがある一方、過度の飲酒は健康を損なう可能性があります。
食事や社交、スポーツイベント、祝い事、宗教的行事など、さまざまな場面において、お酒は重要な役割を果たしています。 また、アルコール飲料を扱う産業が経済的に大きな影響力を持っていることも事実です。
しかし、飲酒には依存症のリスクや、肝臓をはじめとする臓器への負担など多くのデメリットがあり、近年はこうしたリスクに対する懸念が高まっています。

アルコールの悪影響

アルコールを過剰に摂取すると、以下のような健康リスクが高まります。

- 肝疾患
肝硬変や肝不全を引き起こし、場合によっては肝移植が必要になることもあります。

- 循環器疾患
高血圧や心疾患のリスクが高まります。

- 神経疾患・脳疾患
認知症のリスクが高まります。

- がんリスクの増加
特定のがんの発症リスクが高まります(以下の項で詳しく解説)。

- 事故やけがの危険性
飲酒運転や転倒による事故・けがの危険性が高まります。また、殺人や自殺とも関連があるとされています。

- 判断力の低下
正常な判断力が低下し、危険な性行為をしたり、他の薬物を使用したりする可能性が高まります。

- 精神的健康への影響
うつ病や不安症、中毒のリスクが高まり、人間関係や仕事に悪影響を及ぼすことがあります。

- 胎児アルコール症候群
妊娠中の飲酒は、赤ちゃんの脳の発達に悪影響を与え、先天的な異常を引き起こす可能性があります。

- アルコール依存症
短期間で大量のアルコールを摂取すると、生命を脅かす危険性もあります。 

さらに、過度の飲酒は飲酒者本人だけでなく、周囲の人々にも影響を及ぼします。
配偶者や家族、友人、職場の同僚などとの関係が悪化し、大切な人間関係を損なう原因になることも少なくありません。

アルコールと癌|ますます大きくなる懸念


ここ数十年間に渡る多くの研究により、飲酒ががんの発生率、特に前立腺がんのリスク増加と関連していることが明らかになっています。
アルコールによってリスクが増加する主ながんには、以下のようなものが挙げられます。

- 前立腺がん
- 肝臓がん
- 大腸がん
- 乳がん
- 口腔がん
- 咽頭がん
- 食道がん

多くの場合、適度な量の飲酒であっても、がんのリスクを増加させる可能性があると考えられています。 
そのため、米国公衆衛生局のヴィヴェック・マーシー長官は2025年1月に、アルコール飲料のラベルに「アルコールとがんの関連性に関する警告」を追加するよう勧告しました。この勧告では、いわゆる「安全なアルコール摂取量」は医学的に確立されていないことを強調しています。
現在市販されているアルコール飲料のラベルには、飲酒運転の危険性、健康への影響、胎児の発達への悪影響に関する警告が書かれていますが、がんについての言及はなされていないのが実情です。

飲酒による健康上のメリットはある?

アルコールは長い間、「社会的潤滑剤」として人々に親しまれてきました。これは、飲酒が人との交流を円滑にし、家族や友人との集まりや特別なイベントの一部として楽しまれてきたためです。
また、以前は適度な飲酒が心血管疾患や糖尿病のリスクを減らし、健康に良い影響を与えるという考えが一般的でした。しかし、最近ではこの考えに疑問が投げかけられています。
飲酒に関するポジティブな研究もありますが、健康上のメリットはごくわずかであるとされることが多いです。さらに、アルコールはある病気(例:心血管疾患)のリスクを減らす一方で、別の病気(例:がん)のリスクを増加させる可能性があります。そのため、飲酒が誰にとって有益で、誰にとって害が大きいのかを予測するのは難しいとされています。
また、飲酒によるメリットとデメリットのバランスは遺伝やライフスタイルなど個々の要因によって大きく異なると考えられています。

適度な飲酒は健康に良いのか?

いくつかの研究によると、 適度な飲酒は健康に良い可能性があるとされています。
例えば、2018年の研究では、 週に1〜3杯の軽い飲酒をする人は、まったく飲まない人や週に1杯未満しか飲まない人よりも、がんの発生率や死亡率が低い という結果が示されました。
また、2023年に発表された複数の研究でも、同様の結論が報告されています。
約 100万人を12年以上追跡した研究では、禁酒者は適度な飲酒者よりも死亡率が高く、心血管疾患、アルツハイマー病、慢性肺疾患などの発症リスクも高かった。
50万人以上を対象とした研究 では、お酒を飲まない人の死亡率が、適度に飲酒する人より高いことがわかった。
22の研究を統合した分析 では、ワインを飲む人の心血管疾患や関連する死亡率が、ワインを飲まない人より低かった。
一方、2023年に発表された別の研究では、飲酒をしない人と適度に飲酒する人の死亡率にほとんど差がないことが示されました。
また、現在の健康ガイドラインでは、飲酒を健康改善の方法として推奨していないことにも注意が必要です。

適切な飲酒量はどれくらいか?

この質問に対する答えは、時代とともに変化してきました。
現在、アメリカのガイドラインでは、飲酒する場合の適量について、男性は 1日2杯以下、女性は 1日1杯以下 に抑えることが推奨されています。なお、ここでの「1杯」とは、ビールなら約 340g、ワインなら約 140g、蒸留酒(ウイスキーやウォッカなど)なら約 40g が一般的な量です。
しかし、多くの研究や専門家は、適度な飲酒であっても健康に悪影響を及ぼす可能性があると指摘しています。そのため、現在のガイドラインをより厳しくし、推奨される飲酒量をさらに引き下げるべきだとする意見もあります。

私たちが知らないこと|アルコールと健康リスクに関する研究の限界

アルコールが健康に与える影響を調査した大規模な研究のほとんどは、因果関係ではなく関連性を評価するものです。
そのため、アルコールの摂取量が増えると特定のがんの発症率が高くなる可能性があることは分かっても、それが直接の原因であると証明することはできません。
さらに、こうした研究にはいくつかの制限があります。多くは自己申告データに依存しており、必ずしも正確とは限りません。また、暴飲の影響を分析していなかったり、生涯にわたるアルコール消費量を評価していなかったりする場合もあります。
また、一部の被験者は、アルコールに関連する健康問題が生じたことで、飲酒量を途中で変える可能性も考えられます。
これらの制約があるため、アルコールが健康に与えるリスクやメリットについての研究結果が、どこまで信頼できるのかについては慎重な見方が必要です。

まとめ

アルコールのリスクとメリットを評価する研究は、現在も活発に進められています。今後の研究結果によっては、公式なガイドラインや警告ラベルに大きな変更が加えられる可能性もあります。
しかし、ひとつ変わらないことがあります。それは、多くの人がお酒を楽しんでいるという事実です。
ガイドラインが厳しくなり、新たな警告ラベルが導入されたとしても、飲酒を続ける人は少なくないでしょう。だからこそ、飲酒に伴うリスクを正しく知ることが重要です。
今後、研究や議論が進み、飲酒のリスクやメリット、そして適切な飲酒量について、新たな事実が明らかになる可能性があります。自身の健康を守るためにも、今後の動向に注目しながら、正しい情報をもとに適切な判断をしていくことが大切です。

 

参考文献

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37905315/
https://www.aicr.org/news/survey-finds-alarming-gaps-in-americans-knowledge-of-major-cancer-risk-factors/
https://www.hhs.gov/surgeongeneral/reports-and-publications/alcohol-cancer/index.html
https://www.who.int/europe/news-room/04-01-2023-no-level-of-alcohol-consumption-is-safe-for-our-health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37000449/
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37286970/
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https://www.dietaryguidelines.gov/alcohol/info

 

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