健康を維持するために重要な3つの柱は、「バランスのとれた食事」「適度な運動習慣」「質の高い睡眠」です。そして、「質の高い睡眠」は他の2つに比べて軽視されがちだと私は考えます。しかし、実際には、睡眠は無視できないほど重要な要素なのです。
そこで、この記事では 「ぐっすり眠り、気持ちよく目覚めるための科学的に裏付けられた習慣やコツ」 をまとめました。睡眠が私たちの健康にどのように影響するのか、科学的な視点から詳しく見ていきましょう。
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睡眠の質が低いことによるリスク
多くの人は、寝る1~2時間前から眠る準備をしますが、それでも朝すっきり目覚められず、不思議に思うことがあります。本来、睡眠は疲れを回復させるはずなのに、なぜ十分に休めた感じがしないのでしょうか?
実は、寝る前の過ごし方だけでなく、日中の生活習慣も睡眠の質に大きく影響します。間違った習慣が続くと、睡眠の質が低下し、深刻な健康問題を引き起こすこともあります。
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によると、毎日7時間未満の睡眠しかとらない人は、そうでない人に比べて、うつ病やぜんそく、心臓発作など、さまざまな健康問題を抱えるリスクが高くなると報告されています。
睡眠不足が引き起こす健康問題には、次のようなものがあります。
- 高血圧
通常、睡眠中は血圧が自然に下がります。しかし、睡眠が不足すると血圧が高い状態が続き、心臓病や脳卒中のリスクが高まります。
- 糖尿病
睡眠と血糖値の関係は完全には解明されていませんが、一部の研究では、良質な睡眠を取ることで血糖値の調整が改善される可能性があると報告されています。
- 肥満
睡眠不足は体重増加の原因となることがあり、特に子どもや若者への影響が大きいとされています。睡眠中、脳と身体は血糖値をはじめとするさまざまな機能を調整しているため、十分な睡眠は健康の維持にとって重要です。
これらは、睡眠不足によって引き起こされる健康問題の一部にすぎません。では、どうすればこれらの問題を防ぐことができるのでしょうか?
そこで私がおすすめしたいのは、寝る前の1~2時間を気にするのではなく、朝起きたときに自分だけのルーティンを作ることです。
毎日同じ時間に起きる
睡眠の質を向上させ、十分な睡眠時間を確保するために最も大切なのは、毎日同じ時間に起きることです。この習慣は平日だけでなく、週末も守ることが重要です。つい「夜更かし」をしたくなることもありますが、そうした習慣は長期的な目で見ると健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
これは、私たちの体の自然なリズム(睡眠と覚醒の周期)関係しています。体は規則正しい睡眠リズムを維持することを好みます。睡眠と覚醒のリズムは深くつながっており、毎朝同じ時間に起きると、夜も自然と同じ時間に眠りやすくなるのです。
一日を正しく始めるために
あなたが朝起きて最初にすることは何ですか? シャワーを浴びる人もいれば、コーヒーをいれて朝食を準備する人もいるでしょう。そんな中、多くの人が見落としているのが、「日光を浴びること」の重要性です。
日光は、体内時計(生体リズム)を整え、活力を高めるための大切な要素です。朝、顔や肌に日光を浴びることですっきりと目覚めやすくなり、一日をスムーズに始めることができます。
私たちの祖先は、暗い部屋に閉じこもることなく、自然に朝日を浴びて生活していました。朝の光を浴びることは、気分を明るくしたり、寝起きを良くしたり、さらには睡眠の質を向上させたりするシンプルで効果的な方法です。
ただし、日光を浴びる前には日焼け止めを塗ることも忘れないようにしましょう。
日光を浴びるだけでなく、多くの人はコーヒーを飲むことで一日をスタートします。実際、日本人の約65%がコーヒーを習慣的に飲んでいると言われています。
適量のカフェインは、心血管疾患のリスクを減らすなど、健康に良い影響を与えることが研究で分かっています。しかし、問題は「カフェインを正しく摂取できていない人が多い」という点です。
理想としては、起きてから3時間以内にカフェインを摂取し、それ以降は控えることをおすすめします。その理由は、カフェインの半減期が非常に長いからです。
半減期とは、摂取した物質の約半分が体内で分解されるまでの時間を指します。健康な人のカフェインの平均半減期は約5時間とされており、一度摂取すると体内に長く残る特徴があります。
例えば、朝にコーヒーを1杯飲んだ場合(平均して約95mgのカフェインを含む)、昼頃になっても体内にはその半分、約47mgのカフェインが残っています。さらに、夕方になっても約4分の1が体内に留まり、完全に分解されるまでにはかなりの時間がかかります。
そのため、日中にカフェイン飲料を何度も摂取したり、エネルギーバーやカフェインサプリメントを取り続けたりすると、夜になっても体内にカフェインが残り、眠るころになっても覚醒作用が持続してしまうのです。
一方、「カフェインを摂取しても眠れる」と言う人もいます。それは事実で、カフェインが体内に残っていても眠りにつくことができる人もいます。場合によっては、普段より早く眠れることさえあります。
しかし、重要なのは睡眠の「質」です。カフェインが体内に残っていると、深い睡眠に入りにくくなり、一晩のうちに何度も目が覚めることがあります。その結果、朝起きたときに十分に休めた感じがせず、疲れが抜けにくくなる可能性があるのです。
もう一つお伝えしたいのは、SNSでよく見かける「カフェインを摂取する前に、起きてから少なくとも90分は待つべき」というアドバイスについてです。この主張がどこから生まれたのかははっきりしていませんが、これを裏付けるエビデンスはありません。
もし、起きてすぐにコーヒーを飲みたいなら、それで問題ありません。 むしろ、早めにカフェインを摂取したほうが、その分体内での分解が早く進み、夕方にはカフェインの影響が少なくなる可能性が高いです。
重要なのは、起きてから3時間以内にカフェインを摂取し、それ以降は控えることです。これが、睡眠の質を守るための大切なポイントになります。
バランスの取れた朝食
私たちは生まれてからずっと、オレンジジュース、シリアル、ベーコン、卵、トーストなど、さまざまな朝食向け食品の広告を見続けてきました。どの広告も「バランスの取れた朝食の一部」だと主張しています。しかし、実際にバランスの取れた朝食には、どれほど多くの食品が含まれるのでしょうか? そもそも、それらは本当に毎朝食べるべきものなのでしょうか?
確かなことの一つは、1日を正しくスタートさせるために、朝食がとても重要であるということです。さらに、多くの研究によると、カロリーの摂取を夕方ではなく朝に集中させることで、インスリン感度が向上することが分かっています。
つまり、朝食をしっかりと食べ、昼食や夕食の量を抑えるほうが、朝食を軽くして夕食を多く取るよりも、血糖値に良い影響を与えるということです。
インスリンの調節は、肥満や糖尿病の予防・管理において重要な要素です。そのため、適切な朝食を取り、正常なインスリン感度を維持することが大切といえるでしょう。
夕食は早い時間に軽めの食事をとるようにしましょう
私たちが眠っている間、体は回復のためにさまざまな働きをします。脳は日中に得た情報を整理し、筋肉はダメージを修復して回復します。
中でも重要なのは、体が夜遅くに大量の食事を消化することを望んでいないという点です。消化には多くのエネルギーを使います。しかし体はそのエネルギーを、より回復に役立つプロセスに使いたいと考えているのです。
興味深い実験として、スマートウォッチやフィットネスモニターを使い、夕食の時間と食事量による心拍数の変化を追跡してみてください。私の場合、遅い時間にたくさん食べた日よりも、早い時間に少なく食べた日のほうが心拍数が低く、朝の目覚めもすっきりしています。
夜遅くに食べ過ぎないためのおすすめの方法は、夕食後30分ほど待ってから歯を磨くことです。多くの人にとって、歯磨きは就寝前のルーティンの始まりであり、「今日の食事はここで終わり」という心理的なサインになります。この習慣を取り入れることで、自然と夜の間食を減らしやすくなるでしょう。
日常の活動を避けずに続けましょう
疲れて目覚めたときは、予定していた活動を避けたくなるものです。しかし、不眠症を防ぐためにも、朝のランニングやジムでの運動、自宅でのエクササイズなどを積極的に取り入れることは大切です。
確かに、疲れていると気分もすぐれず、成果も出にくいかもしれません。しかし、毎日運動を続けることは、睡眠と覚醒のリズムを整えるのに役立ちます。どんな状況でも、運動は体にとってプラスになることを覚えておきましょう。
昼寝を避けましょう
疲れていると昼寝をしたくなることがあります。特定の状況では昼寝が推奨されることもありますが(例:トラック運転手が安全のために休憩を取る場合など)、習慣的な昼寝は睡眠と覚醒のリズムが乱れる原因になります。疲れや眠気を感じたときは、昼寝の代わりに散歩や軽い運動をしてリフレッシュしましょう。
昼寝の影響は人によって異なります。若くて健康な人にとって、昼寝は頭の働きを良くし、記憶を定着させたり、感情を落ち着かせたりするのに役立ちます。一方、高齢者にとっては、昼寝がさまざまな健康リスクと関連していることが指摘されています。基本的に、どうしても必要なとき以外は昼寝を控えたほうがよいでしょう。特に、昼寝をする習慣は避けることをおすすめします。
不安の管理
これまで、私の患者の中には「疲れているのに心配が止まらない」と訴える方が多くいました。彼らは睡眠の質が低く、常に疲労感を抱えています。それでも、仕事や経済的な問題、人間関係について考え続けてしまうのです。
日々のストレスを管理するのは簡単ではありません。しかし、明日のことを心配しながらベッドで考え込んでも、何の役にも立たないのもまた事実です。
ここで、一部の患者に効果があったと感じた対策をいくつか紹介します。
- 夕方のうちに心配事を書き出して明日に持ち越しましょう。
- 昼間にあった良いことをいくつか書き出し、ストレスだけでなく前向きな出来事にも目を向けましょう。
- 瞑想をしましょう。瞑想にはスキルが必要で、効果を得られるまでには時間がかかりますが、YouTubeなどを活用しながら学び、実践することで、睡眠の質が向上することが研究でも証明されています。
また、特に夕方以降はお酒を控えましょう。アルコールには鎮静作用があり、一時的に眠りにつきやすくなることもありますが、実際には体に負担をかけ、睡眠の質を大きく低下させます。「毎日ワインを一杯飲むと健康に良い」という説も、近年の研究で誤りだと証明されています。アルコールを控えるだけで、睡眠の質が大きく向上するでしょう。
就寝前のルーチン
最後に、質の良い睡眠のためには、就寝1~2時間前に自分に合った睡眠ルーチンを確立することが重要です。 あなたのルーチンが私と同じである必要はありません。それよりも、自分にとって心地よい方法を見つけることが必要といえます。
- リラックスできるストレッチを取り入れましょう。
- 寝る前の15分間、深呼吸をしてリラックスしましょう。
- 温かいお風呂やシャワーを浴びた後、体温が下がることで眠りやすくなります。
- 就寝1時間前から、スマートフォンやテレビの使用を控えましょう。
- 寝室の温度は涼しく(約18~20℃)保ちましょう
- 光を遮るために、遮光カーテンやアイマスクを活用しましょう。
- 快適なマットレスを選び、9~10年ごとに買い替えましょう。また、定期的に掃除して清潔に保つことも大切です。
- 良い枕を選び、1~2年ごとに交換しましょう。
- 寝室にペットを入れないようにしましょう。ペットの動きやフケが睡眠の妨げになることがあります。どうしても一緒に寝る場合は、布団掃除機でこまめに掃除しましょう。
- 寝室にスマートフォンを置かず、目覚まし時計を使いましょう。
最後のポイントは、ベッドは睡眠のためだけに使い、一人で寝ることです。
寝つきが悪いと、体と心が「ベッド=睡眠」ではなく「ベッド=寝つけない場所」と認識してしまいます。もし眠れないときは、無理に横にならず、リラックスできる静かな作業をしましょう。例えば、本を読むのは良い方法ですが、スマートフォンやタブレットなどのデバイスの使用は避けてください。
しばらくして眠くなったら、もう一度ベッドに戻りましょう。これを繰り返すことで、「ベッドは眠るための場所」と脳に覚えさせることができます。
睡眠に役立つサプリメント
メラトニンは、体内で生成される睡眠ホルモンの一つです。主に脳の松果体(しょうかたい)で分泌され、体内時計を調整し、眠気を促す役割を持っています。
メラトニンサプリメントを服用する場合は、就寝の1~2時間前に摂取するのが理想的です。近年アメリカでは高用量のメラトニンが人気を集めていますが、耐性ができる可能性があるため、1mg以下の低用量での服用がおすすめです。
なお、日本では市販されていないため、服用には医師の処方が必要です。必要な場合は、主治医に相談しましょう。
睡眠によって体を回復させるには、副交感神経を活性化させることが大切です。
先ほど紹介した瞑想も、副交感神経を高め、質の良い睡眠を促すのに役立ちます。また、日中のストレスやスマートフォンの使用によって活性化した交感神経を抑えることも、深い眠りにつながります。
そのサポートとして、GABA、L-セリン、L-テアニンなどを含むサプリメントが、臨床的に効果があるとされており、私自身も服用しています。これらのサプリメントは就寝の1~2時間前に摂取するのがおすすめです。
参考文献
https://www.cdc.gov/heart-disease/about/sleep-and-heart-health.html
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6751071/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK223808/
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